Saturday August 01, 2009 at 15:40

ピラミッド型で「仕事が面白い」のは、頂点の人だけ

「マクロス・フロンティア」河森正治監督・4

—— ものづくりの上でのあらゆる可能性を引き出すために、スタッフには「もっと自由にやっていいんだ」と言い続けているということでした ね。けれど、スタッフの側もなかなか最初は“空を黄色く塗る”みたいなことはできなかったという(前回参照)。そこを乗り越えられたから、「マクロスF」 はヒットにつながったんじゃないか。そんな仮説が浮かんできました。

河森 “はみ出し者”を相手にしない組織は多いですよ。だから社員もその組織に合わせてものを作っている、そういう思考になっているという気がしますね。

—— そういう組織の中で活気を生む、職場の温度を上げるというのはすごく大変ですよね。

河森 社員が一列に並んで、パソコンの前でカチャカチャとやっているという。クールな方が仕事をしているように捉えられているみたいな気分もあります。でもそれって「仕事をしたふり」をしているだけじゃないの、とも思うんですよ。

—— けれども、そうしないと上の人に怒られたり、居場所がなくなったりするかもしれない。例えば出版社の編集部でも、いろいろな人が出入り して、以前はもっと、笑い声やら怒鳴り声やらいろいろ飛び交って(笑)、ワイワイ作っていたと思います。けれども、社屋のセキュリティが強化された頃から でしょうか、だんだん静かなオフィスが増えていったという印象があります。

静かなオフィスは、虫のいない農場とよく似ている

河森 そうなんですよ。その「静かなオフィス」というのが、単一栽培種の、整然とした“虫も来ない農場”とものすごく似ている気がするんです。

—— 虫も鳥も来ない。雑草も生えない。

河森 会社と農業は似ているけれどもちろん違う点が山ほどあるので、単純な話ではないんです。だから、お仕事としての、現状の農業を 批判しているんじゃないですよ。人間が働く場所が、「単一栽培種の、整然とした“虫も来ない農場”」と似ているのはまずいんじゃないか、と思っているんで す。

作物を早く大きくするべく過剰な養分を補給して、害のあるものに絶対侵されないように、殺虫剤をまいて、虫を防御して。そうやって考えると虫さえ もいない場所なんですね。必要なもの以外は全部壊して、その作物だけで置いておくということが、いかに生物としては不自然な、活気がない状態であるか、 と。砂漠に、孤独にその種族だけがいるという。僕が考える職場からすると、面白みがないし、寂しい。

作物以外の草があって、ほかの生物—— 虫がいて、虫を食べてくれる鳥がいるというときに、そこはオーケストラになっているわけですよね。単一楽器ではなくいろんな楽器が集まっている。

そしてラッパしかいなくなって

河森 今は、単一楽器どころか単音化していますよね。「より純粋で大きな単音を作ろう」という。

ビオラが出ていき、ピアノが出ていき、俺たちはみんなラッパしかいないんだ、みたいな、全部同じ楽器になって。ラッパも音が揺れているのはだめだから、人工音にしちゃえばいいとか、そういう感覚ですね。

ノイズを全部排除して、純粋音にしていったら、そんなのは面白いわけじゃないじゃないかというね。

—— それなら同じ音をシンセサイザーで鳴らすのが一番いいということになりそうですね。・・・もしかしたら、それが前回仰った、同種のものだけを足していく“足し算”ですか。

河森 そう。同じ音を並列にたくさん並べて、均質なもので、数で音圧だけ上げていくみたいな。そういう方向性になっているんじゃないかなと。

—— 職場が、いろんな人間が集まる場というよりも、その中で同じことをする人間だけを集めて同じ成果だけを求めているということですね。……なんだか「マクロスF」で登場した、「並列思考ネットワーク」を思い出しますね。

「マクロスF」の中で非常に興味深かったのが、敵役側が用いる「並列思考ネットワーク」でした。人類が「並列思考ネットワーク」で繋がるこ とで究極の進化を遂げると考えていましたね。人間の個体や自己をなくして並列化することで、他者とのコミュニケーションを取らなくとも速やかに意思統一さ れて、種として究極の進化を遂げる、という。

河森 ここで言う「並列」というのは、まさしく人間の単音化ということです。均一なものしか許さないという。

河森 結局、人材の均一化は、束ねる側の人間が、管理するのが楽だから起きたんでしょうね。

少数の束ねる側が楽をする、もしくは管理しやすいシステムをつくろうとした場合には、みんなを「手足」にする。思考能力を持つのは自分たちだけ で、ほかは感情を伴わない手足にするというシステムをつくっておけばいいと。ヘンリー・フォードが「手足だけ欲しいのに頭がついてくる」と、従業員のこと を言ったそうです。この発言が事実かどうかはさておき、ピラミッド型管理の考え方はまさにこれですよね。

—— 「マクロスF」では、“敵”が、均一化した人類の頂点、最上位階層に自分が立とうとしました。

河森 その辺りも、今のトップダウン指向や、ピラミッドシステムの限界とリンクさせたいなと思ったんですね。頂点があって、そこからのトップダウン思考が行きすぎると「自分が管理しやすい社員こそが優秀」という考えになってしまうのが怖い。

頂点をつくるピラミッドシステムって、よくできているかのように見えて、大したことはないという、その辺の限界を感じるというんですか。

ピラミッド型で「仕事が面白い」のは、頂点の人だけ

編集Y経営の未来』という本があるんですよ。ゲイリー・ハメルという、昔『コア・コンピタンス経営』 で大ヒットを飛ばした人が書いているんですけど、何が面白いって、ピラミッド型の経営システムは、せいぜい100年かそこら前に発明されたものにすぎな い。我々は今その明確な行き詰まりにきている。これから先に行けないんじゃなくて、たぶん我々は間違った山に登っただけなんだから、別の山をこれから探そ うじゃないか、と煽っている。なんとも元気づけられる考え方なんですよね。うちの親会社もいい本を出してます(笑)。

河森 ひとつには、ピラミッドシステムだと、極端に言えば頂点の数人しか面白くない。あとはみんな部品になってしまうわけなので。それから、ピラミッドシステムは、その組織だけが利益を得るのには向いているシステムだけれども、競争相手をつぶしていかないと成立しない。

—— 常にフロンティアがないと難しいという。競争相手をつぶさないといけないんですね。

河森 つぶし合ったために、共存できなくなって、行き詰まっていますからね。

—— さてそれではいよいよ、自然農にヒントを得て、近代社会流のピラミッド型手法の限界を感じた監督が、「マクロスF」で組織をどう動かされたのかをお聞かせください。

河森 自分の作品では、自分がなるべく従来型のリーダーにならないように試しているんです。

—— そんなことが可能なんですか。

河森 自分が担当する作品では、10年くらい前から実験的に導入しているシステムがあって。

さっき、今の組織が単一なものしか許さない方向に向かっているという話が出ましたけれど、僕はその逆をやってみたいんですよ。“生態系”のようなものづくりというものにチャレンジしてみたいなと思っていて。もう何年も試行錯誤しています。

—— 「生態系のような組織作り」ですか。具体的には。

河森 スタッフが、自由に自分勝手に動いている。だけれども、勝手にやっている同士が集まって、うまくいくバランスを作るという。組織や作品をそんなふうに作りたいなと思っているんですよね。

本来、組織という土壌には、いろんな人がいていいはずなんですよ。雑草が生えていて虫がいていろんな作物ができるように、スタッフワークや作品作 りの上で、みんなが勝手なことをやっているけれども、それぞれが勝手なことをやることで、全体としては生態系のように機能していき、新しい面白い何かをつ くっていくことになるという。

それぞれの生き物がそれぞれのパーソナリティーを持っていて、それぞれが勝手に生きていると。お互い勝手に生きている者同士が影響を与え合い、触発し合うというような。ちょうどいいバランスが取れているのが生態系であるみたいな。

頂点のリーダーを作らない。それで組織は動くのか?

—— 社員一人ひとりが「自分勝手に自由に動く」ことで、職場の温度を上げる、静かなオフィスにしないということですね。

河森 社員を上からの命令で動かすのではなく、社員自身が好きなことをやるために自分で動いてもらう。ものづくりの現場では特に必要 だと思うんです。もちろん、一般的な組織ではリーダーは必要だし、僕らの会社組織的にはもちろん代表はいます。けれど、スタッフワークのところでは、でき るだけその従来型の管理の枠は外したいなと。

それで、自分が作品を監督する時には、リーダー的に行う代わりに、ファシリテーター(促進役)を入れるんです。スタッフ一人ひとりのアイデアやモチベーションの成長促進をする役ですね。

これからは、自分だけではなく、各セッションのチーフがこういうファシリテーター的な役割になっていけるといいなと考えています。

—— 上からの命令があるという形態ではない?

河森 上下関係で言えば、「そのどれもが、あるセクションのリーダーであると同時に、その下に付く」という構造ですね。

生態系的に言えば、単一の支配者を作らないということです。ライオンだってワシだって、補食の頂点にいるように見えても細菌「ごとき」には弱いわけだし(笑)。

そのときに必要な人材というのは、オールマイティな人じゃないんです。もっと凸凹があって良くて、一人ひとりの得意分野はニッチな、狭い範囲でかまわない。そうしたニッチを持ったスタッフが、それぞれ自分の一番好きなことをやれるようにすればいいという。

要は、集団をまとめる側が、スタッフ一人ひとりのニッチを、自分の許容の幅に合わせて矯正「しなければ」いいわけですよね。この人はこの部分のワークが好きだと。じゃあ、そこは好きにやっていいよと。全員に対してそれぞれの部分で言えればいいんです。

好みが同じ人を集める・・・では幅が広がらない

—— 社員が自分の好きなことや得意分野で力を発揮できれば、自然に職場の温度が上がって活気づくというわけですね。

河森 ものを作る土壌の温度が上がるんですね。

スタッフに好きなことを自由にやってもらうためには、ファシリテーターの役割が重要になってきます。ファシリテーターは、「今、組織の中でどのバランスが足りないか」「どこの部分の成長が不足してるか」を常に考えて、そこに新しい人を入れたりできるといいと思うんです。

好きなものが似ている人たちが集まってしまうと、同じニッチの幅にしかならないんですよ。だから、なるべく好みが違う人を集めるわけです。

河森 例えばミーティングをしていて、偉い上司が多勢いると、部下や新人たちはなかなか発言しにくいですよね。こんなこと言ったら失礼だとか、そんなくだらない意見は言うな—— みたいにすぐに否定されたり、つぶされたり。

そこで自分はなるべく、どんな一見つまらない、くだらない意見でも言いやすい場をつくりたいと思うし、そういう意見が出た時に、まわりから否定される前になるべくピックアップするように心がけています。

実際、自分から今まで30年仕事してきた中で、本当にうまくいったアイデアは、ほとんど最初は一笑に付されたものばかりだったので(笑)。これをくり返していくと、やがて、どんな発言でも意味があるというムードが生まれてくると思うんです。

—— それでは社員の方向性は、バラバラなほうがむしろいいというわけですね。単一の価値観、たった一つの優秀さを競う競争の中に社員を投げ込んで、社員みんなのモチベーションを下げなくても済むという点でも、有効そうです。

河森 生態系でもそうなのですが、多様なものを持ち込むときに、必要な要素が1つでも欠けていると、うまく機能しないんです。だから多様な要素を配置するという工夫を最初にすることが重要なんですね。

—— そこまで多様性に重きを置くというのも、興味深いです。

いろいろなものを混ぜて、大きな反応を引き起こす

河森 シルクロードに行ったときにも思ったのですが、いろんな民族がいる民族の交差点は面白いんですよね。文明が入り交じっていて、 同じ国でありながら、すごく中国的なところと、すごくイスラム教的なところがあったりしてね。人の顔立ちも、アジア的な人とヨーロッパ的な人がいたり、そ れがミックスして、女の子がみんなかわいかったりとかね(笑)。

多民族国家の持つエネルギーの源は、いろんなものが混じっているところにあると思います。それも、ただ混ぜてしまって平均化しているのではなく て、アジア人もロシア人も、トルコ系の特異的なところの人もいるというような、原種が残っていて、ハイブリッドもあるみたいな。どれかに特定するんじゃな くて、全部がいるごった煮な世界みたいな。そういう多様性がすごく面白い。

—— さまざまな人材がいると、どんなことが起きるのでしょうか。

河森 異質なもの同士を掛け合わせると、掛け合わせたものが異質であればあるほど、大きな“化学反応”を起こせるんじゃないか。

—— 前におうかがいした「戦闘機と歌」という異質なものの掛け合わせですね。

河森 そうです。それには反応を起こすだけの温度が必要になるので、温度を上げていかないと、やっぱり盛り上がらないんですよね。

温度を上げるために必要なのはフィールドづくりですよね。現場にどれだけの「遊び場」を提供できるかみたいな。

—— 場の提供ですか。

河森 これまででも、「会社に遊び場を作ろう」ということは当然言われてきたと思うんですけれども、それは物を売るための場だったり、会社の効率化のための場という作り方だと思うんですよね。

河森 そうではなくて、自分の会社だけじゃなくて、まわりの動植物という業界全体の生態系までも含めて、総合的に機能するように。そういう感覚まで持てるかどうかが、勝負。

—— 「マクロスF」では、制作体制に、多様性という視点を盛り込んだという形になるわけですね。

マクロスFで意識した「枠」と「野生」

河森 そうですね、今までで一番盛り込んでいます。

それが可能になったのは、本当にスタッフに恵まれたからです。菅野よう子さんの音楽もそうですし、歌を歌ってくれた中島愛さん、May’nさん、当時はほぼ新人でしたけど、そういう実力のある子たちにも恵まれました。

期日の枠、予算の枠はある。だからそういう枠の管理は必要で、管理はそこに長けている人がやればいい。でも、そうじゃない部分はなるべくカオスな方がいいわけで。どこまで野蛮にできるかだし、どこまで野生を残しながらシステムにしていけるかですね。

(次回に続く)